あまり一般的でない(ウェブで検索してもよくわからない)海洋学関連の用語とその説明

2021年の研究将来構想特集論文に出てくる用語を中心にまとめています。

 


追加希望や文章修正は広報担当理事まで:info@kaiyo-gakkai.jp


用語説明関連する
将来構想論文
CMIP
Coupled Model Intercomparison Project
世界各国の研究機関が開発・応用している気候・地球システムのプロセスを表現した結合モデルによるシミュレーション結果を相互比較することを目的としたプロジェクト。解析結果は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書に科学的根拠として大きく貢献している。
<林田博士,2021年9月>
中緯度,極域
Garrett-Munkスペクトル
Garrett-Munk spectrumn
海洋中深層における流速シア・等密度面変位のスペクトル構造を表現した数式モデル。100-1000m程度の鉛直波長をもつ内部波のエネルギーが,非線形相互作用を通じて小スケールへカスケードする過程で形成される。1970年代に観測データに基づき提案され,2000年代には2次元数値シミュレーション,2010年代には全球3次元数値シミュレーションにおいてもその構造が普遍的に形成されることが報告された。内部領域の乱流強度を見積もる際に用いるファインスケール・パラメタリゼーションでは,GMスペクトルを基準として周波数方向の歪みを考慮したモデルに基づきエネルギー散逸率の定式化がなされている。ただし,鉛直波数スペクトルに歪みをもつ南大洋の強流域においてパラメタリゼーションの精度悪化が指摘されており,スペクトル形成とエネルギー伝達機構の理解には課題が残る。
<大貫陽平,2021年11月>
大気海洋境界
JONSWAPスペクトル
JONSWAP spectrumn
海洋表面における風波のスペクトル構造を表現した数式モデル。Klaus Hasselmann(2021年ノーベル物理学賞受賞)が主導した北海での波浪観測プロジェクトJONSWAP(Join North Sea Wave Project, 1973)によって考案された。様々な吹送距離や海上風速下で測定された風波スペクトルを,5つのパラメータを用いて体系的に管理可能なモデル化がなされている。またJONSWAPスペクトルに含まれるPhillips常数,無次元周波数,およびそれらの吹送距離依存性から正味のエネルギーソース関数が推定できるように設計されている。JONSWAPによって風波発達におけるピーク周波数のダウンシフティングとそれを引き起こす非線形エネルギー伝達の重要性が実証された。
<田村仁,2021年12月>
大気海洋境界
LES
Large Eddy Simulation
大気境界層や海洋混合層における非静力学過程を考察するために使われる3次元の流体数値シミュレーション体系。数値格子(グリッド)の大きさの決め方は,大気分野では鉛直混合に関与する直径10m–100m程度の渦,海洋分野では鉛直混合に関与する直径0.1m–1m程度の渦についての流速場を再現できるようにする。それらより小さい渦(サブグリッドスケールの渦)は乱流運動エネルギーという1つの予報変数にまとめてその3次元分布の時間発展を解く。このように流体の動きをグリッドスケールの場とサブグリッドスケールの場に分けてその相互作用を解く方程式系になっている。乱流運動エネルギーが代表する渦の大きさ(混合距離)を推定するにあたり,壁法則を適用しにくい海表面の砕波の取り扱いが1つの課題である。
<相木秀則,2021年10月>
大気海洋境界
Martinカーブ
Martin curve
沈降粒子中有機物の鉛直輸送変化率を示す曲線。1987年にMartinらにより,さまざまな場所でのセディメントトラップのデータから,べき乗関数の近似式(べき指数=-0.858)が提案された。一方で,バラスト効果などにより,場所によってべき指数に違いが生じることも指摘されている。
<山下洋平,2021年11月>
深層
OneArgoこれまでの2000m深までのCore Argoに加え,2000m以深を観測可能なDeep Argo,生物地球化学変量が観測可能なBGC Argoミッションが加わった,統合化されたArgo観測網のこと。Deep,BGC Argoとも,Core Argoフロートと同水準のCTDデータも提供できるため,効率的な観測網構築を目指し,Core Argoのデータを補完するようなフロート展開を実施するOneArgoがアルゴコミュニティーから提唱された。これにより,Core Argoフロートはより観測密度を高くすべき西岸,熱帯域などの海域に多く展開することも可能となる。現時点では技術的課題が残るものの,今後OneArgoによる統合的で効率的な観測網に向けて進められると考えられる。
<細田滋毅,2021年11月>
大気海洋境界
Waveグライダー
Wave Glider
自然を動力とする自律型海洋プラットフォームで,任意の海域へ移動し,一定範囲内に留まることが可能な海洋観測測器。
<土井威志,2021年10月>
熱帯
WMO番号
WMO identification number
気象海象観測情報を国際的に交換する全球通信システム(GTS)に通報する際に,観測者やプラットホームを識別するため,世界気象機関(WMO)がぞれぞれの観測
に与える個別番号。海洋動物による観測は「99」から始まる7桁の数字が与えられる。
<吉田聡,2021年11月>
新手問
アイスアルジー
Ice algae
海氷中や海氷底面に付着して存在する藻類の総称。植物プランクトンや底生藻類といった言葉と同様に生息環境により区別され,海水中と共通して優占する分類群も多数存在する。ナンキョクオキアミなどの餌として知られ,極域における食物網の起点の一つである。
<真壁竜介,2021年9月>
極域
亜熱帯モード水
Subtropical Mode Water
亜熱帯循環北西部に分布する水温・塩分がほぼ一様で数百メートルの厚さをもつ水塊のこと。この水塊は冬の冷却に伴う深い混合層内で作られ,春以降に熱や二酸化炭素,物質等を保持しながら海洋内部に沈み込み,亜熱帯循環内に広く分布する。5大洋全てに存在し,北太平洋では約17度の水温で特徴づけられる。
<杉本周作,2021年9月>
中緯度
アラゴナイト
Aragonite
霰(アラレ)石。海洋生物が作る炭酸カルシウムの結晶形の一つで,別の結晶形にカルサイトがある。海洋酸性化が進行した際,海水のアラゴナイト飽和度はカルサイト飽和度よりも先に1を下回り(未飽和になり),海水中に溶けやすくなる。このため,アラゴナイトをもつサンゴや翼足類などへの酸性化影響が懸念されている。
<川合美千代,2021年9月>
極域
アンダーアイスブルーム
Under Ice Bloom (UIB)
海氷下の海水中で生じる植物プランクトンの増殖のこと。これまで海氷下では光強度が低いために光合成が起こりにくいと言われてきたが,海氷の表面融解で形成される水溜まり(メルトポンド)や海氷の裂け目(リード)を通じて多くの太陽光が透過することで,海氷が融け切る前から植物プランクトンの増殖が活発化していることが近年の観測によって明らかとなった。このシグナルは人工衛星では捉えられないため,砕氷船や漂流ブイなどを活用したモニタリングが必要である。
<渡邉英嗣,2021年9月>
極域
磯口ジェット
Isoguchi Jet
亜寒帯フロント域を北西方向に横切るように存在し,亜熱帯の高温高塩な海水を輸送する準定常的な2つの流れ(起点はJ1が40°N,150°E; J2が40°N,165°E)の通称。Isoguchi et al.(2006,doi:10.1029/2005JC003402)によって見出された。
<纐纈慎也,2021年9月>
中緯度
インド洋の海盆モード現象
Indian Ocean Basin Mode
インド洋熱帯域の海面水温が全体的に上昇あるいは低下する年々変動の現象。
<土井威志,2021年10月>
熱帯
衛星搭載散乱計
Satellite scatterometer
人工衛星に搭載されたマイクロ波散乱計。マイクロ波のパルスを発振し,海面からの後方散乱を受信する。散乱強度が海面の凹凸に依存することを利用して,凹凸を引き起こす海上風向・風速を推定する。
<吉田聡,2021年11月>
新手問,大気海洋境界
エントレインメント
Entrainment
海洋表層混合層の下端から混合層内へ直下の海水を取り込むこと。様々な海洋でのSST偏差形成過程理解に不可欠なプロセスである。混合層下部水温との水温差とエントレインメント速度の積が,エントレインメントによる混合層水温への寄与を決定する。エントレインメント速度は,混合層深度自身の時間変化傾向,混合層深度の水平移流,混合層下端での鉛直流速によって表現され,混合層が浅くなる間は0と見なす場合が多い。なお気象学分野におけるエントレインメントは,積雲対流の文脈で環境場から積雲内に空気を取り込むことを意味することが多い。
<山上洋航,2021年10月>
大気海洋境界
沿岸ニーニョ現象
Coastal Niño
大陸西岸で発生するエルニーニョ現象のような現象であるが,水平スケールはエルニーニョ現象に比べると小さい。
<土井威志,2021年10月>
熱帯
縁辺海
Marginal seas
外洋(~大洋)の縁にある海。日本海やオホーツク海のように半分閉じている海もあれば東シナ海のように広くつながっている海もある。
<木田新一郎,2021年9月>
沿岸
海洋内部格子化データセット
Ocean interior gridded dataset
時空間に「まばら」な海洋観測データを定量的に解析し易くするために,統計的手法を用いて格子化データセットが作成される。その多くは最適内挿法を用いて客観解析されるが,それら格子化データの特性は,データ数,データの信頼性,時空間の平滑化スケールに依存する。近年Argoフロートデータにより海洋内部のデータ量が飛躍的に増加し,全球規模現象の再現性が向上,海面高度の長期トレンド,貯熱量変化がより高精度に得られるようになった。特に,海盆規模で得られる塩分データは,格子化することで大気海洋間淡水フラックス変動に伴う水循環変化が推定可能になるなど,過去に類のない新たな知見が多数獲得され,IPCC報告書等にも研究成果として広く活用されている。対象となる現象の時空間スケールに留意しつつ活用する必要があるが,今後も大気海洋相互作用や気候変動研究にとって欠かせないデータセットとなるであろう。
<細田滋毅,2021年11月>
大気海洋境界
海洋酸性化
Ocean acidification
大気中の二酸化炭素が海水中に溶け込むことによって,海水の炭酸化学平衡(海水中の炭酸,炭酸水素イオン,炭酸イオンの存在比が,ほぼ一定に保たれた状態)の位置が変化し,海水のpHが低下すると共に海水の炭酸カルシウム飽和度が低下する現象。
<安中さやか,2021年10月>
熱帯,沿岸,極域
海洋由来エアロゾル(海水飛沫粒子)
Sea spray aerosols
海塩粒子や植物プランクトンが作り出す有機物が飛沫によって大気に放出し,大気中で浮遊する微小な液体または固体の粒子。
<野村大樹,2021年8月>
極域,大気海洋境界
北太平洋中層水
North Pacific Intermediate Water
北太平洋亜熱帯循環域300-800mの深度(ポテンシャル密度1026.8 kg/m3; 中立面密度1026.9 kg/m3)に広がる塩分極小構造とその深度付近の海水を指す。低塩分の起源は亜寒帯にあり,特にオホーツク海における重い海水の影響を受けている。
<纐纈慎也,2021年9月>
中緯度
輝度温度
Brightness temperature
全ての物体は温度に応じて電磁波を放射している。輝度温度は,物体が「黒体」に相当すると仮定した時の放射温度となる。地表面や大気からの輝度温度は,マイクロ波の周波数帯で,海面の水温・塩分・粗度や,大気中の気体の吸収特性,水および氷粒子の吸収・散乱特性等によって変化し,それらの要素は異なる周波数特性を持つ。マイクロ波放射計は,輝度温度を多周波・多偏波で測定することで,主に水に関する様々な地球物理量の推定を行う。
<磯口治,2021年10月>
大気海洋境界
揮発性有機ガス
Volatile organic compounds (VOCs)
揮発性があって大気中で気体状となる有機ガス。オゾンを触媒的に破壊する物質としてハロゲン原子が挙げられ,そのハロゲン原子を供給する経路の一つとして,有機ハロゲンガス(ハロカーボン)が重要視されている(例えばブロモホルム)。また,雲核の供給を支える物質としてジメチルサルファイド(DMS)などもある。
<大木淳之,2021年8月>
極域
吸湿性(エアロゾル粒子の)
Hygroscopicity
エアロゾル粒子が水分を吸収する性質のこと。吸湿性を持つエアロゾル粒子は,周囲の大気の相対湿度(RH)の増加にともない吸湿成長する。例えば海塩粒子に含まれる主な無機塩である塩化ナトリウムはRH75%で潮解し,さらにRHが上昇すると急激に吸湿成長する。粒径が同じであれば,吸湿性が高い粒子ほど雲凝結核として働きやすい。
<岩本洋子,2021年11月>
大気海洋境界
吸着除去(スキャベンジング)
Scavenging
環境中に存在する固相(堆積物や海水中の粒子状物質に含まれる粘土鉱物や自生鉱物,有機物,微生物など)の表面に元素が吸着したり,互いに凝集して粒子化し,海水中から除去される過程。
<近藤能子,2021年9月>
沿岸
雲凝結核
Cloud condensation nuclei
雲の形成には雲凝結核として働くエアロゾル粒子の存在が必要不可欠である。自然界では水分子同士が集まって雲粒のサイズ(数〜数100マイクロメートル)の微小水滴を作ることは困難である。しかし,大気中に吸湿性を持つエアロゾル粒子があれば,粒子を核として水分子が凝結し雲粒が形成される。このようなエアロゾル粒子を雲凝結核と呼ぶ。
<岩本洋子,2021年10月>
大気海洋境界
純群集生産
Net community production
有光層内での植物プランクトン等の光合成による有機物生産(総一次生産)から有光層での全ての生物の呼吸(群集呼吸)を差し引いた有機物生産のことを純群集生産と呼ぶ。正味の生産を考えるとき,純群集生産は総一次生産より重要である。例えば,表層の二酸化炭素分圧の変動については,総一次生産でなく純群集生産を考慮する必要がある。
<橋濱史典,2021年9月>
中緯度
原核生物
Prokaryote
細胞内に核を持たない単細胞生物。細菌(Bacteria)および古細菌(Archaea)の2系統を含む名称。
<横川太一,2021年11月>
深層
鉱物ダスト
Mineral dust
土壌粒子が強風により大気中に巻き上げられ飛散することで生じるエアロゾル粒子。地球の陸域の1/3を覆う乾燥・半乾燥地帯が主な発生源である。国内で主に春に観測される黄砂は,アジア大陸の乾燥・半乾燥地帯を起源とする鉱物ダストが偏西風により長距離輸送される現象である。
<岩本洋子,2021年10月>
大気海洋境界
極沿岸
Nearshore processes
沿岸域の中でも海岸線に極めて近い領域。
<木田新一郎,2021年9月>
沿岸
混合栄養生物
Mixotroph
独立栄養と従属栄養を組み合わせて行う栄養形式をもつ生物。プランクトン群集では,バクテリア,植物プランクトン,微小動物プランクトンから,時としてメソサイズ以上の動物プランクトンに至る様々な分類群でみられる。近年とくに原生生物において,従来の「植物」,「動物」の区分を問わず,広くみられる栄養形式であることが明らかになりつつあり,これまでの海洋低次栄養段階像を大きく改変する概念として注目されている。
<高橋一生,2021年9月>
中緯度
コンステレーション
Constellation
衛星コンステレーションとは衛星群のことで,多数個の人工衛星をシステム設計された軌道に投入し,協調した動作を行わせることで,システムの目的を果たす運用方式である。最も身近なものとしては,GPSに代表される全球測位衛星システム(GNSS)があげられる。地球観測衛星に関しては,各国の衛星が協力して地球全体を観測するA-Train(The Afternoon Constellation)と呼ばれる,コンステレーションがある。いろいろなセンサで同地点を観測することが効果的となるが,A-Trainでは,複数の衛星がほぼ同一軌道に隊列を成して飛行することにより,地球の同一地点をほぼ同じ時刻に観測する。従来は,通信衛星,測位衛星のコンステレーションが主流であったが,近年は,小型衛星による,光学,レーダーセンサのコンステレーションも増えている。また,民間の気象会社が主体となって気象衛星のコンステレーションも計画されている。
<磯口治,2021年10月>
大気海洋境界
再解析データ:一般
Reanalysis data
各種観測データとモデルを最小二乗フィッティングにより結び付けた推定値。現業機関で予測の初期値化のためにルーチン的に行われている「解析」に対して,単一のモデル・同化手法を用いて,遅延通報を含めて追加QC処理などを行った観測データを用いた長期推定を「再解析」と呼ぶ。ただし,再解析期間の中で観測要素・分布・質(誤差)は変わるので,必ずしも均質な推定値ではないことに注意が必要である。海洋分野でも観測データとモデルを融合した長期推定値を「再解析」と呼ぶことがあるが,研究機関ベースで進められた先駆的なプロダクトは速報解析・予測に対応しているわけではない。
<豊田隆寛,2021年11月>
再解析データ:極域
Reanalysis data
時空間的にまばらな観測データを物理法則と整合するように数値モデルで補間することで作成された格子化データセットのこと。大気の再解析データでは米国のCFSR,欧州のERA-Interim,日本のJRA55などが代表的である。北極域においても観測データをある程度反映しているものの,短波放射や降水量などはデータセット間でばらつきが大きい。海洋の再解析データも構築されており,ノルウェーでは北極海に特化したTOPAZシリーズの開発・改良が進められている 。
<渡邉英嗣,2021年9月>
極域
再解析データ:中緯度
Reanalysis data
全球・準全球の海洋再解析に加え,主要な機関が存在する中緯度付近での利活用のニーズに応えるため,中規模渦やより詳細な循環構造を解像するデータ同化プロダクトが提出されている。日本周辺でもチャレンジングな高分解能データ同化・予測システムが提案・運用されており,長期の再解析も行われている(九州大学のDREAMSシステム,JAMSTECのJCOPEシリーズ,水産研究・教育機構のFRA-ROMSシステム,気象研・JAMSTECのFORAプロダクトなど)。この際,高分解モデルを拘束し,目的に応じて結果を検証するための適切な観測が重要である。例えば,水産業のニーズに応えるために,下層から表層または河川からの栄養塩供給とその消費を評価する必要がある。物質輸送・拡散の観点からも潮流や波浪の作用を含めた3次元的な循環変動の評価・予測が求められる。
<豊田隆寛,2021年11月>
中緯度,沿岸
再解析データ:熱帯
Reanalysis data
現在では,各国の現業・研究機関で,大気モデルだけでなく海洋モデルも用いた,ひと月から数ヶ月の予測が行われている。この季節予測の主要なターゲットはENSOやIODなどの熱帯変動であり,1990年代に整備された熱帯域のTAO/TRITONアレイデータなどの同化が全球的な予測精度に影響している。更に,大気・海洋結合モデルを用いた解析・再解析システムも開発されつつあり,これにより海面フラックスを含めた熱・水収支の不確実性の低減が期待される。
<豊田隆寛,2021年11月>
熱帯
サウンドスケープ
Soundscape
様々な音源の種類やその時間的,空間的,周波数特性により構成される包括的な音環境。構成要素として,波浪や火山活動など大気,海洋,固体地球の活動によって生じる音(geophony),鳴き声や摩擦音など生物の活動によって生じる音(biophony),車両や船舶の往来など人間活動によって生じる音(anthropophony)に区別される。とくに海洋生物は情報収集を音に依存するものが多く,騒音(noise pollution)による行動や生態の変化も懸念される。
<渡部裕美,2021年11月>
新手問
時系列採水
Time-series water sampling
連続的にあるいは一定間隔を置いて海水を採取すること。係留系に時系列採水器を設置することにより,船舶観測のない時期の海水を採取することもできる。海水を保管するサンプルバッグにあらかじめ塩化水銀(II)溶液などを加えておけば,栄養塩などの非保存性成分の測定も可能である。
<川合美千代,2021年9月>
極域
次世代シークエンサー
Next-generation sequencer
従来のサンガーシーケンスと異なり,1度に数百万~数億のDNA/RNA配列を迅速・安価・高精度に解読可能な装置。難培養性の生物を含む環境中の群集構造解析,各種のゲノム解読,機能遺伝子の発現解析等に活用が可能。解析技術の違いにより第2世代シーケンサー,第3世代シーケンサーのように定義される場合もある。
<平井淳也,2021年9月>
中緯度
シデロフォア
Siderophore
微生物(土壌,海洋細菌,酵母,麦科植物)が細胞内の鉄濃度が低下した際に生産・放出する分子量500-1000ほどの低分子鉄キレート剤の総称で,三価の鉄イオン(Fe)と高い親和性を持つ。放出されたシデロフォアは環境中の粒子表面に吸着している鉄と錯体を形成し,鉄を粒子態から溶存態に移行させる。
<近藤能子,2021年9月>
中緯度
従属栄養微生物の生産速度
Prokaryotic production rate
従属栄養微生物が有機物を体内へと取り込む速度(≒有機物分解速度と考えられることもある)のこと。汎用性のある方法として放射性同位体トレーサー法が用いられる(放射性元素でラベルされた有機物を試水に添加し一定時間培養,従属栄養微生物細胞を回収し,細胞画分の放射線量から取り込まれた有機物量を見積る)。
<横川太一,2021年11月>
深層
自由対流圏
Free troposphere
対流圏のうち地表面に近い部分は,大気境界層と呼ばれ,摩擦や熱の授受,地形の影響を受ける。これらの影響をほとんど受けない高度1〜1.5 kmより上の部分は自由対流圏と呼ばれる。地表面の影響を受けにくいので風が強く,特に水平方向の物質輸送が卓越する。
<岩本洋子,2021年11月>
大気海洋境界
白波被覆率
White cap coverage
海表面における単位面積当たりの白波領域の被覆率。白波は風速がある程度以上になると発生し始め,白波被覆率は風速の増加とともに急速に増大する。
<岩本洋子,2021年11月>
大気海洋境界
新生産
New Production
表層での有機物生産のうち,大気や有光層以深など系外から供給される栄養塩類に依存する部分。これに対し系内で循環する栄養塩に依存する部分を再生生産(Regeneration Production)と呼ぶ。
<高橋一生,2021年10月>
熱帯
水中ドローン
Remotely-Operated Vehicle
水中を自由に移動し撮影調査などを行う無人機。
<土井威志,2021年10月>
熱帯
スキャベンジング
Scavenging
環境中に存在する固相(堆積物や海水中の粒子状物質に含まれる粘土鉱物や自生鉱物,有機物,微生物など)の表面に元素が吸着したり,互いに凝集して粒子化し,海水中から除去される過程。
<近藤能子,2021年9月>
中緯度
ストームトラック
Storm track
一般的には低気圧の進路のことを指す。北極海では,北大西洋からユーラシア大陸側のバレンツ海周辺を経由して太平洋側北極海に至る移動性低気圧がある。この低気圧は北極海における水蒸気の供給源となっており,その進路上で多大な降雪をもたらす 。また反時計回りの風が卓越することで,カナダ海盆の海氷・海洋に生じている時計回りのボーフォート循環を弱化させる働きがある。
<渡邉英嗣,2021年9月>
極域
スベルドラップ輸送Sverdrup transport海洋の各地点で風応力カールに比例して生じる南北方向の鉛直積算流量(エクマン流と地衡流の和)
<岡英太郎,2021年11月>
セイルドローン
Saildrone
自律型航行で,風力を推進力とし,太陽光発電でデータ取得を行い,人工衛星通信を利用してリアルタイムで地上にデータを送る測器。
<土井威志,2021年10月>
熱帯
大西洋ニーニョ現象
Atlantic Niño
熱帯大西洋で起こるエルニーニョ現象のような現象。
<土井威志,2021年10月>
熱帯
ダウンスケーリング
Downscaling
広域で計算された低解像度の数値モデルの結果を用いて,より小さい計算領域で高解像度で計算すること。
<木田新一郎,2021年9月>
沿岸
脱窒
Denitrification
海水中の溶存窒素栄養塩を亜酸化窒素(N2O)や窒素ガス(N2)に変換する過程。海洋からの窒素栄養塩除去過程の一つ。酸素濃度の低い海水中あるいは堆積物中で起こる。
<川合美千代,2021年9月>
極域
炭酸カルシウム飽和度(Ω)
Calcium Carbonate saturation state
炭酸カルシウムは,サンゴなど様々な海の生物の骨格や殻の主成分であり,海水中の飽和度が低下することで,それらの形成が阻害される。
<安中さやか,2021年10月>
熱帯
淡水レンズ
Fresh lens
降水による淡水化によって海面近傍に形成される鉛直スケール0.1-1m程度の成層構造。降水イベントに応じて1-10kmオーダーの水平スケールをもつ。また,雨水温度に応じて冷却効果も伴う。数時間程度持続し,強風下での鉛直混合や夜間の海面冷却による対流によって解消される。数m深度を計測する現場観測ではレンズを捉えきれないため,数cm深度を測定する衛星観測との乖離が生じる。同様に,現行の気候モデルの解像度では陽に解像されないため,その表現にはパラメタリゼーションが必要となるが,降水という間欠イベントに支配されることから海洋現象であるにも関わらず大気モデルに組み込むことが望ましい。なお,レンズ同様,1mm以下のマイクロレイヤーも海面塩分との乖離に寄与し,したがって海面での気体や熱交換(フラックス)に影響しうるが,これらの気候への影響は十分に理解されていない。
<片岡崇人,2021年10月>
大気海洋境界
地衡流
Geostrophic current
圧力勾配による力とコリオリ力がバランスした流れ。
気象では地衡風とも呼ばれ,原理は同じである。
<補足>
1. 海面地衡流は海面高度の等値線に沿った流れを指し,衛星観測による海面高度から求めることが多い。
北半球では,海面が高い方を右に見るような流れになる。
<関連する衛星プロダクト/ミッション:AVISO,SWOT>
2. 浅い海域の地衡流は等水深線に沿った流れになることが多いため,等水深線のことを等地衡流線(Geostrophic contour)と呼ぶことがある。
<木田新一郎,2021年9月>
沿岸
窒素固定
N2 fixation
窒素分子(N2)を還元して多くの生物が利用できるアンモニア(NH3)に変換するプロセス。海洋では主に植物プランクトンの藍藻類やバクテリアが窒素固定の担い手である。窒素栄養塩が枯渇した亜熱帯外洋域表層では窒素固定が生物生産を支える窒素源として重要な役割を担っている。近年,北極海や南極海における窒素固定が発見された。
<川合美千代,2021年9月>
極域
沈着
Deposition
大気中の物質は地球表面に沈着することで,大気圏から除去される。沈着には2種類があり,大気から気体やエアロゾル粒子が拡散や重力沈降によって直接除去される過程を乾性沈着(Dry deposition),霧・雨・雪など降水にをともなって除去される過程(Wet deposition)を湿性沈着と呼ぶ。
<岩本洋子,2021年10月>
大気海洋境界
データ品質管理
Quality control of data
海洋観測データにはエラーが含まれそのまま解析に使うことは難しいため,データ取得後の品質管理も不可欠である。船舶や係留系等と違い,回収することが難しいフロートデータなどでは,他の観測データとの比較により品質管理を行う。Argoデータの場合,観測毎のデータを自動検出しエラーフラグを付ける即時品質管理と,長期ドリフトなど検知に精密さを必要とし複雑なエラーの検知・補正を行う遅延品質管理の2段階がある。また,BGC Argoで観測される生物地球化学変量の算出には,センサー出力値だけでなくCTD値も用いるため,CTDの遅延品質管理の結果も反映されかなり複雑である。ユーザーの目的によりどの品質管理状況のデータを用いるかは異なってくるが,解析を始める前に品質管理状況を確認し,極力遅延品質管理済みデータを用いるべきである。
<細田滋毅,2021年11月>
大気海洋境界
鉄の化学形態
Iron speciation
大きくは濾過作業により溶存鉄(<0.2 µm),粒子状鉄(>0.2 µm)に分けられる。さらに,溶存鉄でも錯体を形成しているかどうかなど,さまざまな化学形態で海水中に存在する。
<山下洋平,2021年11月>
深層
トランスポーラードリフト
Transpolar drift
ラプテフ海や東シベリア海から北極点を介して,フラム海峡まで至る海氷や海水の流れで,風応力により駆動されている。トランポーラードリフトによる北極海からの海氷流出量は年間2000km3のオーダーである。この流れは,陸起源あるいは大陸棚起源の水や物質を北極海内部や北大西洋に輸送する役割を持つ。地球温暖化で永久凍土の融解や河川水増加が進む中,トランスポーラードリフトによる水・物質輸送の重要性が高まっている。
<溝端浩平,2021年9月>
極域
西風バースト
Westerly Wind Burst
通常は東風が吹いている太平洋熱帯西部で,稀に強い西風が続く現象。
<土井威志,2021年10月>
熱帯
濃縮係数
Enrichment factor
生物による元素,放射性核種,汚染物質等の濃縮度合いを示す指標。対象物質が海洋の環境と生物の間で平衡状態に達していることを前提に計算され,海水中の濃度に対する生物体内濃度の比を用いる。主に海水および餌生物からの取り込みと排泄のバランスにより決まるため,栄養段階の上位に位置する生物ほど値が高くなる傾向にある。
<帰山秀樹, 2021年12月>
新手問
バイオフィルム
Biofilm
固体・液体の表面や界面に微生物が付着して作られる膜状の構造。微生物膜。
<大林由美子,2021年10月>
大気海洋境界
バラスト効果
Ballast effect
炭酸カルシウム,オパール(無定形ケイ酸)や陸源鉱物などがおもりの役割を果たすことで粒子の沈降速度を増加させ,有機物がより深層まで輸送される効果。
<山下洋平,2021年11月>
深層
バリアレイヤー
Barrier Layer
水温は鉛直方向にほぼ一様の等温層であるが,塩分が深さとともに増加しているために密度成層している。
<土井威志,2021年10月>
熱帯
光ストレス
Light stress
光エネルギーにより生物活動が何らかのストレスを受けること。海洋では海面付近で強光(過剰な光エネルギー)により植物プランクトンや従属栄養微生物の生産性が低下することがあり,このことは強光阻害(photoinhibition)とも呼ばれる。
<大林由美子,2021年10月>
大気海洋境界
氷晶核(氷晶核粒子)
Ice nucleating particle
水蒸気が昇華,または水滴が凝固する際に核となるエアロゾル粒子のこと。大気中で水分子のみでできた過冷却水滴はおよそ-40度以下にならないと凍結しないが,氷晶核の存在により,より高い温度で凍結する。氷晶核として働く粒子として,鉱物ダスト,バイオエアロゾル(バクテリア等)がある。
<岩本洋子,2021年10月>
大気海洋境界
貧酸素化
Ocean deoxygenation
水温の上昇に伴う酸素の溶解度の減少および躍層の強化による低層域への酸素の供給量が低下する現象。
<栗原晴子,2021年9月>
沿岸
風洞水槽
Wind-wave tank
海洋の水面波と海上風の相互作用を考察するための室内実験装置。風波水槽とも呼ばれる。同じ性質の水面波や気液流動場を実験毎に再現し詳細に測定する事ができる。風洞水槽内の気流の境界層厚さは数10 ㎝であり,この中の鉛直プロファイルを得るために,風速センサーを数mm単位で上下に移動させ,測定周波数は100 Hz以上にする。気流の対数分布領域で測定された摩擦速度(水面の摩擦応力を速度の次元で表したもの)から海上10 mにおける風速を推定し,海洋におけるフィールド観察結果と比較するのが一般的である。吹送距離が水槽長さ以下となるという問題点については,ループ法などの造波器を使用すれば,ある程度解決する。風洞水槽においては,真水・温水・塩水・界面活性剤や重油や生物的に汚染された水を使用することができるため,これらの液体物性値の違いについての考察が期待される。
<高垣直尚,2021年10月>
大気海洋境界
腐植物質
Humic substances
生物の死後,生物体有機物が微生物的・化学的作用を受けて崩壊して生じた「化学構造が特定されない非生体有機物」の総称。土壌や堆積物からの腐植物質は一般にはアルカリや酸に対する溶解性に基づいてフミン酸,フルボ酸など定義される。海水中では滞留時間が長い難分解性溶存有機物として,一部は鉄など金属元素と錯体を形成する。
<近藤能子,2021年9月>
中緯度
腐植様蛍光性溶存有機物(FDOM_H)
Humic-like fluorescent dissolved organic matter
溶存有機物の中で土壌中の腐植物質と同様な蛍光特性を示す有機物。古くから土壌腐植物質を起源とすること知られていたが,ここ20年の研究により,海洋微生物により生成されることも明らかとなった。微生物には分解され難いが,太陽光(紫外線)により容易に分解される。
<山下洋平,2021年9月>
沿岸,深層
フラックス
Flux
断面を通過する物質やエネルギーの量。一般的には単位時間当たりの量で表すが,単位時間・単位面積当たりの物質・エネルギー量を表すこともある。例えば,河川から流入する淡水や物質の量を評価する場合には,単位時間当たりの全流入量を河川からの淡水フラックスなどと呼ぶ。一方,大気海洋間の熱や物質のフラックスは,単位時間・単位面積当たりで表すことが多く,領域積分することで,ある海域の単位時間当たりの交換量(海洋による吸収量あるいは海洋からの放出量)を求める。
<安中さやか,2021年9月>
沿岸,大気海洋境界,熱帯
ブライン
Brine
海氷が凍る際に形成される高塩分な水のこと。結氷時には真水が結晶化するため,海水中の塩分が濃縮されてブラインとなる。ブラインは,海氷の中に残るか,海氷下の海水に排出される。ブラインの排出は海水を高密度化させるため,海洋循環に重要な影響を与える。ブライン中には塩分だけでなく,その他の海水中成分も濃縮される。
<川合美千代,2021年9月>
極域
プルーム
Plume
河川水と海水の混合により形成された低密度水が河口域から空間的に広がる様子(河口域から沖へ扇状に広がり,北半球であれば岸を右手にみて進むなど)を一般に河川プルームと呼ぶ。極域においては,棚氷底面の融解水を低密度水を起源とするプルームがある。棚氷や氷河の底面は深度数百mに位置し,暖水の流入により融解する。融解水は周囲よりも低密度であるため,棚氷や氷河の底面から海面まで浮上する。その際に,周囲の栄養塩が豊富な海水を海面まで持ち上げる。
<溝端浩平,2021年9月>
極域
偏波
Polarization
電磁波における電界の振動様態の分類の一つで,電界の振動方向。光の場合には偏光という。らせん状に回転するものを円偏波,直線状に振動するのを直線偏波と言う。地球観測衛星の場合直線偏波が主流であるが,衛星の進行方向に平行なものが水平偏波,垂直なものが垂直偏波と定義される。一般にターゲットは複雑な形状をしており,ある偏波で電波をあてた場合,だ円の偏波状態となって反射波が戻ってくる。現在のレーダーでは,例えば,水平偏波を送信し,反射波の水平偏波成分と垂直偏波成分を同時に取得できる。この時の水平偏波成分が同一偏波成分,垂直偏波成分が交差偏波成分となる。この偏波情報を計測することにより,ターゲットに関する様々な情報を引き出すことが可能となる。
<磯口治,2021年10月>
大気海洋境界
放射性核種
Radionuclide
元素が持つ同位体のうち,不安定な原子核が崩壊して何らかの放射線を放出する同位体のことをいう。天然起源の放射性核種と人工的に生成されたものが存在する。海洋における放射性核種の存在形態は元素や条件によって異なり,海水中で溶存するものの他,海水中の生物に取り込まれたり,懸濁粒子や堆積物中に取り込まれたりした粒子態のものがある。
<乙坂重嘉,2021年11月>
新手問
天然放射性核種
Natural radionuclide
地球を構成する放射性核種のうち,地球の年齢と同等かそれ以上の半減期を持ち,現代まで放射線を出し続けているもの(一次天然放射性核種: ウラン-238他),これらの崩壊生成物として生まれ続けているもの(二次天然放射性核種:ラドン-222他),及び,宇宙線と大気中の元素が反応して生成されるもの(誘導天然放射性核種: 炭素-14他)のことをいう。
<乙坂重嘉,2021年11月>
新手問
人工放射性核種
Anthropogenic radionuclide
放射性核種のうち,原子力発電などの産業活動や核兵器の使用・実験によって人為的に生じたものをいう。原子燃料に含まれる成分の核分裂による生成物のほかに,原子炉内での中性子照射で生成される。現在環境中に存在する人工放射性核種のほとんどは核実験に起因するもので, その放射能は自然放射能に比べると極めて少ない。
<乙坂重嘉,2021年11月>
新手問
ポリニヤ
Polynya
海氷に囲まれた海水面あるいは薄氷域。潜熱ポリニヤと顕熱ポリニヤがある。前者は風や海流で形成された海氷が発散することで,後者は暖かい水が湧昇することで,ポリニヤが維持される。
<川合美千代,2021年9月>
極域
マイクロネクトン
Micronekton
プランクトン(浮遊生物)と,ネクトン(遊泳生物)の中間的な遊泳能力をもつ生態群。外洋中深層を主分布域とし,日周鉛直移動するものが多い。オキアミ類,遊泳性エビ類,小型魚類・イカ類などが含まれる。
<高橋一生,2021年10月>
熱帯
マッデン・ジュリアン振動
Madden-Julian Oscillation
熱帯インド洋で発生した雲の大規模な集団が赤道上を東へ進む現象。
<土井威志,2021年10月>
熱帯
ミー散乱
Mie scattering
入射光の波長をλ,散乱体の半径をrとしたとき,λ>>rの近似が成り立たない時に起こる散乱現象。自然光が球形の雲粒やエアロゾル粒子によって散乱される場合はミー散乱となる。入射光の波長が一定のときは,散乱体の粒径が大きいほど前方散乱が卓越する。
<岩本洋子,2021年10月>
大気海洋境界
メソコズム
Mesocosm
野外や屋外などにて複数の生物種を人為的に囲うことによって生物間相互作用や生物と環境要因との相互作用など生態系レベルでの評価を目的とした中規模操作型実験系。
<栗原晴子,2021年9月>
沿岸
メタゲノム解析・メタトランスクリプトーム解析
metagenomics / metatranscriptome
メタゲノム解析:対象とする系に生息する微生物(群集)を回収。その後,微生物細胞からDNAを抽出・精製,シーケンサーを用いてその配列を決定する。得られたDNA配列情報から対象とする微生物の系統組成および機能遺伝子組成を決定し解析する。メタトランスクリプトーム解析:対象とする系に生息する微生物(群集)細胞からmRNAを抽出・精製・cDNA作成,シーケンサーを用いてその配列を決定する。mRNA配列情報から対象とする微生物の発現機能解析をおこなう。
<横川太一,2021年9月>
深層
メタバーコーディング
metabarcoding
個々の標本から得られたDNAの塩基配列に基づき種同定を行うDNAバーコーディングに対し,環境DNA等の複数種由来の配列が含まれる試料から網羅的に生物群集を解明する技術。ユニバーサルプライマー(当用語集参照)を用い特定生物群の種同定に有用な目的領域をPCRで増幅し,超並列シーケンサーを用いて大量配列を取得後,データベース上の参照配列と比較を行いうことで各種の在不在等を明らかにする。
<宮正樹,2021年11月>
新手問
有機錯体鉄
Organic iron complex
溶存鉄のうち,鉄イオンと有機配位子が錯体を形成している形態の鉄を指す。海水中で有機錯体鉄を形成する有機配位子には,海洋細菌が細胞内の鉄が不足した際に生産するシデロフォア,河川水などから供給されるフルボ酸等の腐植物質,植物プランクトンの増殖過程で生成される細胞外多糖類,また捕食や細胞溶解など植物プランクトン細胞の分解再生過程で放出される化合物などがある。
<近藤能子,2021年9月>
中緯度
ユニバーサルプライマー
univrsal primer
約15-30塩基の長さからなる合成一本鎖DNAであり,特定の生物群の保存領域に結合するように設計されている。PCRに用いることで,種間で変異に富む超可変領域が増幅可能となる。細菌の16S領域,真核生物の18S領域,動物のミトコンドリアDNA COI領域などのユニバーサルプライマーが開発されている。また,魚類の環境DNA解析ではミトコンドリアDNA 12S領域を対象としたMiFishプライマーが広く利用されている。
<宮正樹,2021年11月>
新手問
予測シミュレーションのアンサンブル法
Ensemble forecast
初期値やモデルの設定を有り得る範囲で僅かに変えた計算を複数回実施し,将来起こる可能性のある状態を多数作り出す手法。
<土井威志,2021年10月>
熱帯
粒子生成
Particle formation
気体分子のクラスター化によってエアロゾル粒子が生成される過程。最初に超微小粒子(1-10 nm)が生成され,粒子への気体の凝結や粒子同士の凝集によって10-1000 nmまでの大きさの粒子にまで成長する。粒子生成の原因となる気体(前駆気体)としてはNOx,SOx,NH3,揮発性有機化合物(VOC)などがある。
<岩本洋子,2021年11月>
大気海洋境界
粒子追跡モデル
(Lagrangian) Particle tracking model
粒子が海洋中を動く軌跡を時々刻々と解くモデル。海洋循環に用いるときは粒子が水塊のことを指すことが多いが,流れによって流される卵・化学物質・プラスチックなどを表すものとして用いることも多い。
<木田新一郎,2021年9月>
沿岸
領域大気輸送モデル(領域化学輸送モデル)
Regional chemical transport model
大気中の化学成分の濃度を支配する放出,輸送,化学反応,沈着を数値モデル化し,その時間発展を解く数値シミュレーション。大陸から都市スケールを対象とするものを特に領域大気輸送モデル(領域化学輸送モデル)と呼ぶ。例として,化学天気予報システム(CFORS)やSPRINTARS予報システムがある。
<岩本洋子,2021年10月>
大気海洋境界