日本海洋学会は海洋学の進歩普及を図ることを目的として1941年に設立されました.

本会はその目的を達するため, 研究会・講演会の開催, 学術的刊行物の発行, 研究業績の表彰や研究の奨励などの事業活動を行っています.

会長挨拶

2019―20 年度の会長を務めます神田です。長い伝統のある日本海洋学会の運営という、極めて大きな責任を伴う仕事をさせていただくことになりました。微力ながらもちろん全力を尽くす所存ですが、会員の皆様、評議員・幹事はじめ学会役員の皆様におかれましては、日本海洋学会の発展のため是非お力添えを賜りたくお願い申し上げます。この機会をお借りして、就任にあたっての所信を述べさせていただきます。

私から指摘させていただくまでもなく、我が国の基礎研究や高等教育をめぐる状況は、厳しさを増しております。社会全体が少子高齢化の影響を受けるなかで、それに輪をかける形で研究者を志す大学院学生が急減しており、研究者人口そのものにも影響が及び始めております。多くの学会で、会員数の減少が顕在化していますが、日本海洋学会も例外ではありません。また、政府の財政状況は依然として厳しく、基礎研究や高等教育に思い切った投資がなされる状況ではありません。海洋研究の最重要のプラットフォームとして利用されてきた船舶についても、その維持や更新についての費用の確保が次第に難しくなってきています。一方で、船舶に限らず多様なプラットフォームが海洋研究のために駆使されるようになっており、新たな機材・機器が不可欠なものになってきています。海洋に関する研究は、他の分野に比べて資金面でも人的資源面でもより多くのリソースを必要とするのは事実であり、それゆえに我が国の社会状況の影響をより強く受けることが懸念されます。このような状況のなかで、日本の海洋学の研究コミュニティとして、自らの将来像をどのように描いていくかが問われています。

もちろん悲観的な状況ばかりではありません。私たちが研究対象としている海洋は、地球表面の 71%を占め、気候変動・環境変動の鍵を握る領域です。また海洋は、水産資源、石油・天然ガスをはじめとする鉱物資源、さらには再生可能エネルギー利用などを通して、人類社会の持続可能な発展の拠り所でもあります。国際的には、海洋に関連する研究開発へのリソース投入は、むしろこれから拡大していくことが期待されます。私たちが日々痛感しているとおり、巨大なシステムとしての海洋の挙動は、未だ十分に解き明かされているわけではありません。人間活動による負荷が海洋に、ひいては全球に及ぼす影響について、国際社会は正確な把握・予測を海洋の研究者に求めています。ご存じの通り、国際連合の持続可能な開発目標(SDGs)には海洋に関する項目(目標 14)が設けられていますし、2021 年から 2030 年までの 10 年間は国連によって「持続可能な開発のための海洋科学の 10 年」として定められ、特に国際社会が梃入れすべき研究領域として海洋が位置づけられています。我が国においても、2007 年に施行された海洋基本法のもと、2018 年 5 月には第 3 期となる新たな海洋基本計画が定められました。海洋に関する科学的知見の充実や、これを基盤とした海洋の産業利用の促進、海洋環境の維持・保全などは、海洋基本法施行当初から一貫して海洋政策の主要な柱として位置づけられています。海に囲まれた地勢と、面積では世界第 6 位となる排他的経済水域を背景として、「海洋立国」を目指す政策は、国民からも広く受け入れられていると思います。こうした観点も含めて、基礎的な海洋研究の意義や重要性を継続的に社会に訴えていくことは、海洋学の研究コミュニティの重要な役割であろうと考えますし、私たちの描こうとする将来像にも大きく関わります。

追い潮と向かい潮が交錯する状況のなかで、私たちは海洋学の将来像を見据え、研究コミュニティとしての方向性を議論していく必要があります。そしてそのような議論の上で、日本海洋学会としての将来構想を再び検討すべき時期に来ていると考えます。この4 年間、日比谷前会長のもとで、日本海洋学会は一連の大きな改革を行いました。すなわち、セッション提案制の導入による研究発表の活性化、日本地球惑星科学連合(JpGU)と合流した春季大会開催や新たに発足した海洋生物学研究会をハブとした合同シンポジウム開催による他分野との連携促進、これらと軌を一にする国際化の促進、さらには学会財政の健全化に至るまで、多くのことが成し遂げられ、学会運営については当面の明確な見通しを得ることができました。日比谷前会長のご尽力に心から感謝を申し上げると共に、これらの改革を学会運営に確実に定着させつつ、その効果を確認・検証していくことが、今期の学会運営の基盤と考えております。その上で、私としては日本という場における海洋研究の未来像 ─学術的な方向性だけでなく、研究機関や教育機関のあり方、研究者や研究を支援いただく専門人材の育成・キャリアパス、研究に必要な船舶や衛星その他のインフラのあり方、なども含めて─ について、学会としての議論を始めるべきと考えます。海洋研究の未来像と学会のあり方については、私は特に以下の3点を重要と考えます。

1 海洋分野での若手研究者確保

日本の研究者人口全体が減少に向かう状況であっても、海洋分野の将来性・社会的要請を踏まえれば、若い世代に海洋研究を志してもらえるような環境を整備することは極めて重要です。これまで学会で取り組んできた若手支援、教育問題研究会を中心に小中高生や一般社会向けに精力的に展開している諸事業に加えて、海洋に関連する各研究機関や大学などにおける将来構想や組織改革の取り組みとも連携しながら、優秀な人材を継続して育成し、安定で優れた研究環境を提供していくために、学会として果たすべき役割について検討する必要があります。また海洋観測などで研究活動を支援していただいている専門的な人材の育成とキャリアパスも重要な検討対象と考えます。

2 海洋研究の方向性と必要なリソース

科学技術の急速な進展のなかで、国際社会の負託に応えることのできる海洋研究の方向性を議論していくことは学会の重要な機能の一つです。その検討と並行して、海洋研究を支えてきた船舶などの現状を正確に把握した上で、海洋研究に必要なリソースやインフラの確保について、メリハリのある明確な方向性をもって社会へ継続的に訴えていく必要があります。その意味で、日本学術会議が進める大型研究計画事業への参画は、学会としても重要な意義があると考えます。

3 安定した運営を継続できる学会のあり方

日比谷前会長をはじめとした関係者のご尽力により、当面の学会財政は安定化に向かうものと予想されます。大会や学会誌の充実に加え、海洋観測ガイドライン作成のような社会に向けた諸活動にも引き続き注力しながら、会員数の減少が予想される状況での学会の事業と収入の推移について、注視と中長期的なシミュレーションが必要です。それを見極めた上で、長い間の懸案になっている法人化についても、実施の是非やタイミングについて検討を開始すべきと考えます。

平成から令和に時代が移り、2021 年(令和 3 年)には日本海洋学会は創立 80 周年を迎えることになります。海を興味深い学びや研究の対象であると認識し、この道を志してきた学会の諸先輩とそれを受け継いできた私たちの歩みについて、ここで改めて振り返ってみる良い節目かと思います。若い研究者の確保がどの学術分野でも問題になり、海洋分野も例外ではないことは先に述べた通りですが、海を面白いと思った私たち自身の初心を思い起こすとき、方向性は自ずと明らかなのかも知れません。私たちが楽しんで研究を行っている姿を、若い世代と共に広く一般社会に伝えることのできる学会でありたいと思うものです。

平成31年4月

東京海洋大学 神田 穣太