天気予報は、今や日常生活に欠かせない情報の一つです。日本で天気予報が始まったのは、1884年、今から約140年も前のことです。当時発表された、日本初の天気予報は、「全国一般風ノ向キハ定リナシ天気ハ変リ易シ 但シ雨天勝チ」という、かなりざっくりとしたものでした。それから、約1世紀半という年月をかけて、天気予報は、科学と技術の進歩とともに、もっと細かく、より的確な情報を、皆さんに届けられるようになりました。たまにハズレたりもするけれど、悪しからず…

 天気とは、一般的に、地上や大気の状態のことを指します。これとは対象に、海の流れや温度といった、「海」の状態を予報することを目的とした、「海の天気予報」が、近年精度をあげ、私たちの生活をより豊かにし始めていることを、皆さんは知っていましたか?日本では、2001年12月から、海洋研究開発機構(ジャムステック)が、週1回、2ヶ月先までの日本周辺の海の状態を予報して、結果を公開しています。この予報は、運用開始から22年経った今も続いていて、海洋生態系や、漁獲量を左右する、黒潮という巨大な海流の予報にも役立っています(図1)。

 海の天気を予報するためには、一秒間に何万回もの計算ができる、スーパーコンピューター(通称・スパコン)と呼ばれる高性能計算機が必要です。今世紀初めから、海の天気予報を、日本で開始できるようになったことの一因に、地球シミュレーターと呼ばれる、ワールドクラスの日本製スパコンの誕生があります。2002年から運用を開始した地球シミュレーターは、いくつもの改良を重ね、現在は第四世代として、ジャムステックによる海の天気予報を支えています。また、地球シミュレーターの改良と並行して、海の天気予報の精度も向上しています。つまり、海の天気予報は、地球シミュレーターとともに、切磋琢磨し、今日まで続いていると言えます。

 現在、世界では、国連の掲げる「海洋科学の10年」および「持続可能な開発目標(SDGs)14番・海の豊かさを守ろう」を実現するために、様々な取り組みが行われています。まだまだ馴染みのない「海の天気予報」が、今後10年間で、どのように進展し、「海」を通じて皆さんの生活を豊かにできる発明へと展開していくのか、大いなる期待も込めて、本連載「海の天気予報」の執筆に励んでいけたらと思います。

 

林田博士・宮澤泰正・美山透