図:試しに挿入してみました。
 

 日本の南岸では黒潮が東向きに流れ、千葉県犬吠埼で岸を離れてからは、黒潮続流と呼ばれます。黒潮や黒潮続流よりもさらに南側の海域では冬に、黒潮が南から運んできた暖かい水が北西の季節風で冷やされ、深さ数百メートルに達する深い対流が起きます。その結果、冬の終わり(3月ごろ)には「亜熱帯モード水」と呼ばれる水温約17℃の一様で巨大な水の塊ができます。

 近年、人工衛星による海面高度観測(注1)や観測ロボットによる海洋内部の水温・塩分観測網(注2)ができたことにより、黒潮続流や亜熱帯モード水が10年くらいの規模で大きく変動している様子が明らかとなりました。この変動を作り出しているのは、日本よりずっと東、ハワイの北の海域における偏西風の変動です。偏西風が弱まると、その下の海面が高くなり、その海面の高さが大きな波となって西向きに伝わります。それが3~4年後に日本付近に到達すると、黒潮続流は不安定な状態となり、亜熱帯モード水ができにくくなります。逆にハワイの北の偏西風が強まると、3~4年後に黒潮続流は安定状態となり、亜熱帯モード水ができやすくなります。

 さて、亜熱帯モード水の変動は海の中をどのように変えるでしょうか。紀伊半島の南で50年以上続く気象庁の船舶観測データを見ると、亜熱帯モード水の断面積だけでなく、「見かけの酸素消費量」(注3)、栄養塩(注4)といった化学量も変動している様子が分かります。これは、黒潮続流の南の海域から沈み込み、日本の南に運ばれてくる亜熱帯モード水が増える時期には、相対的に若い水(=海面を離れてから時間のたっていない水)の割合が増えるためです。さらに、海洋酸性化により海水のpHは長期低下傾向にありますが、pHにも亜熱帯モード水の影響が見られます。若い水は二酸化炭素を多く含んでおらず、pHが高いため、亜熱帯モード水の増える時期には海洋酸性化に伴うpH低下が打ち消されるためです。逆に亜熱帯モード水の減る時期には、酸性化が加速します。

 このように、ハワイの北の風の変動は、黒潮続流と亜熱帯モード水を変化させ、日本の南、沖縄に至るまでの海洋酸性化速度をコントロールしています。次の研究ターゲットは、このような亜熱帯モード水に伴う海洋内部の変動が、海面付近にどのように影響するかということです。例えば、栄養塩の変動が海面付近に伝われば、そこでの植物プランクトンの光合成量を変化させるかもしれません。すなわち、「ハワイの北で偏西風強い→黒潮続流が不安定に→亜熱帯モード水形成量が低下→海洋内部で栄養塩増加→海洋表面でも栄養塩増加して光合成増大」という図式が成り立ち、「風が吹けば植物プランクトンが儲かる」となるかもしれません。このような亜熱帯モード水に関わる海洋物理・化学変動をより詳細に調べるために、新学術領域研究「変わりゆく気候系における中緯度大気海洋相互作用hotspot」というプロジェクトで現在、水温・塩分センサーに加え、溶存酸素・pHセンサーを搭載したロボットが日本の南の海域に展開され、亜熱帯モード水の集中観測が行われています。

 

参考:
hotspot2:https://www.jamstec.go.jp/apl/hotspot2/
昨年の報ステ:https://www.youtube.com/watch?v=r5Gg2dzCd3I
 
岡英太郎