・エルニーニョ現象って何?
日本のはるか南の海,熱帯太平洋で,水平10,000kmの規模で、空と海が連動して変動する現象で、数年に一度発生することが知られています。水温の変動は1度程度ですが,世界中で異常気象を引き起こすことが知られており,例えば,1997年に発生したエルニーニョ現象に伴い,世界で340億米ドルの損害があったとも言われています(WMO調べ)。
異常気象の話題でよく登場するようになりましたが,そもそもは,ペルー沖の漁師達が,毎年クリスマスの頃になると,海水の温度が高くなる現象を,スペイン語でイエス・キリストを意味するエルニーニョと呼んでいたとされています。歴史的にもエルニーニョ現象と魚にはとても深い関係があるのです。
・エルニーニョ現象で不漁?
エルニーニョ現象が発生すると、一部の地域で極端な不漁(あるいは豊漁)になる傾向が高くなることが報告されています(FAO調べ)。例えば、ペルー沖のアンチョビ(カタクチイワシの一種)漁は極端な不漁になる傾向があります。しかし、これらは経験的・統計的なデータ解析に基づく知見であり、実際にどのようなプロセスが働いていたのかについては、正確にはわかっていないのが現状です。例えば、エルニーニョ現象に伴う海中の水温や塩分の変動が,どのように海流の変動を引き起こし、ひいては、海の栄養分布にどう影響したのか?その結果,植物プランクトン,動物プランクトン,そして小型魚類、大型魚類などが関わる食物連鎖がどのように変調したのか?についての知見は乏しいのが現状です。
・目指すべき未来とは?
国際的な海洋観測網の発展と,スーパーコンピュータを使った数値シミュレーションの高度化によって,エルニーニョ現象の発生は,1年程度前からでもある程度は予測ができるようになりました。これに加えて,上述したようなエルニーニョ現象と魚の関係について海洋物理−化学−生物の分野横断で統合的に理解し,その知見をシミュレーションに反映させることで,エルニーニョに伴う不漁を数ヶ月前から予測する科学技術が創出できるかもしれません。そうなれば,予測される不漁に対して,なんらかの対策を講じ、備える事でその被害を軽減できる可能性もあります。人為起源と考えられる長期的な地球環境の変化で,海の生物は既に多大なストレスを抱えているのが現状です(例えば、海洋の高温化、酸性化、貧酸素化などが挙げられます)。エルニーニョ現象自体は自然システムに内在する変動現象で昔から起こってはいたのですが,高ストレスを抱える今の海洋生態系にとって、エルニーニョの影響が,自然回復不能な程に強くなることが危惧されます。エルニーニョに伴う不漁を正確に予測し,その被害を軽減するための研究が今後益々重要になってくるでしょう。そのためにも,研究者同士のコミュニケーションはもちろん,漁業関係者の皆さんとのコミュニケーションを強化し,このような予測情報の活用方法を検討する必要があると考えています。
土井威志