President hibiya

このたび、栄誉ある日本海洋学会の会長を拝命することになりました。責任の重大さに、身の引き締まる思いです。至らぬ点が多々あると思いますが、何卒よろしくお願い致します。私にとって、今年は、海洋学会に入会してちょうど35年目。学生だった当時とは全く違う立場からの新たなスタートとなりますが、その冒頭にあたって、少しだけご挨拶させて頂きます。

ここ数年、私は、日本海洋学会の外の学会、例えば、アジア・オセアニア地球惑星科学会 (AOGS)や日本地球惑星科学連合学会 (JpGU) の役員、さらには、国際海洋物理科学協会 (IAPSO) の役員を務めてきました。これらの学会では、ご多分にもれず、会員を増やすには何が必要か、また、国際化をどうやったら果たせるかといった議論が盛んに行われています。この一方で、私は、最近4年間、 Journal of Oceanography の担当幹事として海洋学会の幹事会にも身を置くことになり、国内外の学会での仕事を並行して進めるという、とても貴重な機会を得ることができました。そのような仕事を続けるうちに、日本海洋学会にはまだまだ「伸びしろ」がある、言い換えれば、海洋学会のさらなる発展に向けて、こんなことを試してみたらよいのではないかというポイントが、いくつか頭に浮かんできました。

これには、海洋学会の内部にかかわる、今すぐに着手できるものと、海洋学会と外部との関係にかかわる、少し時間をかけて進めていくべきものとがあります。

まず、海洋学会の内部にかかわることですが、大きな柱は二つです。大会の研究発表に新しい形式を導入すること、それと、これまでの有益な事業を継続し、発展させていくことの二つです。

大会の研究発表については、会員があらかじめ提案した特定のテーマについて研究発表を募集する「テーマ設定型」のセッションを取り入れていきたいと思います。最近の大会では、研究発表の前後に設けられるシンポジウムの開催件数が増え、その一方で、研究発表の件数が減っていることが問題になっています。現在の研究発表では、一人の持ち時間が15分に限られていて、十分な議論ができない。それよりも、シンポジウムの方が、興味を同じくする人たちの間で、濃厚な実のある議論ができる。そういった点が、主な理由のようです。しかしながら、大会の本体ともいうべき研究発表の件数がこのまま減少の一途をたどり、付随するシンポジウムのウェイトばかりが高まっていくというのは、大会のあるべき姿とは思えません。研究発表そのものを、より魅力的なものに作り変えていく必要があります。

私は、この点に関し、AOGSやJpGUのように、まず、会員が大会のセッションとして取り上げたいテーマを提案し、そのセッションの方向性/研究の切り口を明確にした上で研究発表を募集するという形を取り入れられないかと考えています。そうすれば、それぞれのセッションに、上述したシンポジウムの良さを組み込むこともできます。セッションの中に Invited Speakerを組み込んでもよいと思います。さらに、それを海外からの著名研究者という形に広げていければ、海洋学会が目標の一つとしてきた国際化への序章としても位置付けることができます。若い人たちの研究発表を海外の研究者に聞いてもらう機会にもなり、とてもよい刺激になるだけでなく、将来を見据えた人脈づくりにも繋がるはずです。

もちろん、すべてを一気に変えてしまうつもりはありません。提案されたテーマにあてはまらない研究もありますから、その発表の受け皿として General Oceanographyのようなセッションを設けておく配慮も必要です。参加したすべての人たちが普段の研究生活とは違う刺激を受け、よりよい研究を進めていくための driving force になるような、実りのある大会にしてきたい。そう強く思っています。この新しい発表形式は、私が所属している東大本郷キャンパスの主催する2016年度の春季大会で試験的に導入し、より魅力的な大会のあり方を学会員の皆様と一緒に模索していきたいと考えています。

海洋学会がこれまで続けてきた大切な事業も充実させていきたいと思います。

例えば、若手支援です。これについては、残念ながら解散してしまった「海洋未来技術研究会」から今までに補助して頂いた資金を、継続的に、若手の海外渡航の支援に使わせて頂き、今後の海洋学会を背負っていく若手研究者の育成の手助けをすることができればと思っています。企業の会員の皆様との関係も、ぜひとも強化すべきポイントの一つです。若い時には理論指向の強かった私自身も、最近は海洋観測を通じた研究がエフォートの半分を占めるようになってきました。理論研究と観測の両方を行って実感しているのですが、新たな測器開発と研究の進展は強くリンクします。春と秋の大会で行っている企業展示も、もっと充実させ、新しい研究の芽、新しい測器開発の芽を育てる場にしていきたいと思っています。

春と秋の大会に並ぶ海洋学会のもう一つの本丸である学会誌の充実も重要です。今や Journal of Oceanography (JO) は、低迷期を脱して、インパクトファクタが1.5に達しています。2014年の8月から論文掲載料として会員に2万円、非会員に5万円を課すようになってからも、依然、多くの投稿が続いています。海外からの投稿数も全体の約2/3に達しており、海洋学会の国際化を図る上で JOのさらなるレベルアップは不可欠な重要課題です。投稿数、および、掲載数が継続して増えるよう、石坂 JO編集委員長のもとで益々発展していくことを望んでいます。

次に、海洋学会と他の学会や研究分野との協力、そして、国際化についてです。これからの海洋学会は、もっと外部に目を向け、日本だけでなく世界の海洋科学を、さらには地球科学全体を引っ張っていく気概を持つこと、そして、そのための戦略を練ることが、とても重要な課題であると思っています。

2014年度は、「学術会議への大型研究マスタープランの申請」で苦い経験をしました。地球科学の関連分野から学術会議に申請した大型研究マスタープランは、海洋科学のみならず、ほぼ全滅に近い結果になり、年末には、東大・地震研究所で地球科学関連分野の研究者グループが一堂に会して、対策を話し合いました。また、どの分野も、目減りしている基礎研究に対する研究資金をどう確保していくかといった問題を抱えています。このように、地球科学に関連した分野が協調して活動していかなければならない機会が増えています。現在JpGUは、2016年の AGUとの共同シンポジウム、2017年のAGU-JpGU共同開催を企画し、国際化への道を走っています。ここに、海洋学会がどう絡んでいくのか、あるいは、独自路線を歩んでいればそれでよいのか、どこまでをJpGUとともに行い、どこに海洋学会の独自性を求めていくべきなのか、現在の海洋学会とJpGUとの距離感を、きちんと見つめ直す必要があります。

独自性に関して言えば、上述した大型研究マスタープランの申請でも、特に総合科学としての色彩が濃い海洋科学の場合には、その幅広さを前面に出すと、審査する側には、茫漠とした、総花的な申請としか映らなくなるという危険性があります。海洋に関するトピックが細分化している現在、もう少し的を絞って申請する、あえていえば、その時点で海洋学会が進めていきたい分野に優先順位をつけるというような思い切った作戦も必要になってきているように思います。

このような独自性をきちんと意識した上で、地球科学関連の他学会との共同歩調をどのように進めていくべきなのか、大変に難しい問題ですが、今、これに取り組むことを避けてはいけないと思います。

このようにざっと考えてみても、海洋学会が抱えている難題は山積みで、挙げれば、きりがありません。私の在任中に解決できるところは解決し、推進すべきところは推進し、海洋学会のさらなる発展、国際化に向けて全力投球していく所存です。

今後とも学会員の皆様のご協力を頂けますよう、何卒よろしくお願い致します。

平成27年4月

東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻
日比谷 紀之