我々人間は現在,地中や海底深くに貯まっていた石油や石炭などの化石燃料をせっせと燃やして,大気中に二酸化炭素を放出しているが,その結果地球の「温暖化」が急速に進行しているという話は良く耳にするが,それと同時に海では「酸性化」が引き起こされているということはご存じだろうか?
溶液にはレモンやお酢のように酸性の溶液が有る一方で石けんや多くの洗濯洗剤のようなアルカリ性の溶液が存在し,それは水素イオンの濃度によって決まる。水素イオンが増えるほど酸性に傾く一方で減少するほどアルカリ性となり,水素イオンの濃度を示す単位にpH(=-log10[H+])が使用される。ではなぜ大気中の二酸化炭素(CO2)が増えると海が酸性化するのかというと,CO2は水に溶けるとすぐに HCO3-とH+(水素イオン)へと解離する。つまりCO2が海水に溶けるほど水素イオンが増加するため酸性になるというからくりである。最近では海水のpHを測定するためのセンサーが開発され,調査船やブイ,ARGOフロート(リンク:00)などによって世界中の海で海水のpHが観測されているが,その結果実際に海水のpHが年々低下していることが示されている(リンク:ex岡さんの文章)。ただし元々海水のpHは8.2と弱アルカリ性であり,その値が少しずつ中性に近づいてはいるが,将来海が酸っぱくなってしまう訳では無いので安心していただきたい。
とはいえ,海の生き物にとっては実はこの酸性化というのは非常に手強い問題なのである。その理由としては第一に海水が酸性化すると炭酸カルシウムの殻や骨が作りづらい環境になってしまうからである。例えば熱帯の海に生息するサンゴは炭酸カルシウムの骨を作ることによって成長し,サンゴ礁を形成している。また貝類はその殻によって身を守り捕食者などの天敵から身を守っている。このためこれら生き物は酸性化によって成長が抑制されたり,捕食圧の増加によって生き残れる確率が減少してしまう可能性が考えられる。ちなみにこの炭酸カルシウムの作りやすさは水温にも関係しており水温が低いほど作りづらくなるため北極や南極に生息している生き物はより大変だ(リンク:ex川合さん?の文章)。第二に海水が酸性化すると生き物の体内も酸性化してしまう点にある。例えば魚などは,体内のpHを調整する機構を持っており血液中のpHを一定に保つ能力が備わっている。しかし多くの無脊椎動物はそのような機構が部分的にしか備わっていないため,体内のpHは容易に変化しやすく,例えばpHの低下によりタンパク質の合成量が低下するなど生物の生理や代謝の低下に繋がる。またある程度調整できたとしても,体外へと余分な水素イオンを排出すために多くのエネルギー(ATP)を必要とするため,成長や繁殖に回せるエネルギー量が減少してしまうなどの可能性がある。またこれまで酸性化に強いと考えられてきた魚でも,例えばクマノミは海水が酸性化すると自分の家としているイソギンチャクの匂いが分からなくなってしまい迷子になってしまうなど,我々が想像もしないような形で生物に影響を与える可能性がある。さらには植物プランクトンのようにCO2を光合成などに元々利用する生物にとってはむしろ成長速度が増加するという研究例もある。
最近の研究によって,海の酸性化が生物にどのような影響を与えるのか多く発見がなされているが,では実際このまま酸性化が進んでしまった場合,海の生き物や環境,生態系はどのように変化してしまうのだろうか。将来我々は今のようにカキを食べられるのだろうか。美しいサンゴ礁の海で泳げるのだろうか。そして果たして我々はこのまま二酸化炭素を放出し続けてしまって本当に大丈夫なのだろうか??
栗原晴子