日本海洋学会会長挨拶
日本海洋学会は、日本の海洋に関する基礎的な科学を代表する戦前からの歴史のある学会で、欧文と和文の2つの学会誌および、年に2回の大会を通じて活発に学会会員の研究成果を発信しています。さらに、海洋研究や海洋教育の重要性を社会に知らせる様々な活動を行なっています。このような学会の会長を務めることは大きな責任があることを肝に銘じてこの2年間の学会運営を行って行く所存です。
 
さて、最近のわが国の海洋の分野における最も大きな出来事は2007年4月に国会で「海洋基本法」が制定されたことであると思います。2002年に文部科学省の海洋開発分科会は答申「21 世紀初頭における日本の海洋政策」を出し、これまでの海洋開発中心の考え方から「海洋を守る」「海洋を利用する」「海洋を知る」のバランスのとれた政策に転換することを示しました。ここでは海洋学会が目指す「海洋を知る」ことが海洋の3つの総合的な施策の1つであるとされています。しかし、これらの実現の為には海洋を統合的に扱う「海洋基本法」およびそのもとでの海洋の総合的な施策を推進する政府組織が是非必要でした。今回の「海洋基本法」の成立はこの方向への大きな進展です。「海洋基本法」では、海洋担当大臣を置き、内閣府におかれた海洋政策統合本部で、「海洋基本計画」を5年ごとに作成していくことになっています。この海洋基本計画でも海洋の幅広い調査・研究が海洋政策の大きな項目の1つとなる予定です。日本海洋学会がこれまで蓄積した海洋科学に関する知見、将来への展望がその中で生かされるよう、海洋の調査・研究への具体的な提言を積極的に行なって行きたいと思います。
この海洋基本法への働きかけは海洋学会の役割の1つである海洋の研究者と社会を繋ぐ分かりやすい例ですが、幸い、本学会では社会との接点を広げる多くの活動がすでになされています。海洋教育の重要性を深く認識した会員によって高校生から社会人までを対象に海洋の科学、海の環境の重要性などをテーマとした様々な教育活動が行われています。また、海洋環境委員会でも主に沿岸・内湾域における環境問題に関して声明等で社会に向けて多くの発信を行なっています。このような努力を継続し、さらに拡充していくために学会全体で積極的に社会にアピールしていくことの姿勢が大切です。
学会の喫緊に検討しなくてはならない課題としては学会誌の電子ジャーナル化への問題、学会の財政状態の改善などがあります。幹事会を中心に着実にこれらの問題には取り組んで行きますが、他の海洋関係の多くの学会との連携による発言の強化も重要です。幸いなことに、最近では学会のようなNGOの発言も行政や、立法でそれなりに社会の声として取り上げてくれるようになりました。日本海洋学会の存在が関連の研究者だけでなく社会全体に見えるよう様々な工夫を考えて行きたいと思いますのでどうぞよろしく御願いいたします。
日本海洋学会会長
小池 勲夫