2011年4月14日に下記発起人を中心とした有志により、「震災にともなう海洋汚染に関する相談会」が開催された(後援:日本海洋学会、日本学術会議)。100名以上の参加者があった。

福島第一原子力発電所から放出されている放射性元素による海洋汚染が、どのくらい深刻であるのか、どのように拡がるか、海洋環境と水産資源にどの程度の影響を与えるか、海洋科学専門家は何をすべきかが議論された。それをとりまとめて、下記のように、海洋学会に提案する基本方針と、海洋科学専門家がとるべき具体活動とした。

相談会発起人:池田元美、植松光夫、蒲生俊敬、田中教幸、谷口旭、山形俊男

「震災にともなう海洋汚染に関する相談会(4月14日開催)」からの提言

同相談会参加者は以下の方針を確認し、海洋学会の総意として取り組むように提案する。また早急に具体活動を開始し、海洋学会を通じて様々な協力を、自らも含めた海洋科学専門家に求める。さらに学術会議SCOR分科会などを通じて他の海洋科学関係学会にも働きかける。

<方針>
○ 大気、陸水、土壌、農学、水産など関連分野の専門家・学会と連携し、海洋科学専門家の英知を世界から広く結集することによって海洋汚染の実態を把握し、予測精度の向上に貢献する。

○ 原子力工学専門家と協力し海洋への放出過程と量を把握するとともに、放射線防護の専門家による生態系と人体への影響評価に資する情報を提供する。

○ 生態系を含めた海洋中の放射性核種について、海水中と海底堆積物での鉛直構造にも注目し空間分布や物質循環の時系列変化を求める。海域は沿岸陸棚、黒潮親潮混合域、それ以遠に分割し、現場観測とモデルを組み合わせることによって、時空間変動を求める。

○ リスク・アセスメントに必要な情報を提供し、規制や制度改革など、市民の判断も含めた政策決定プロセスに資する。市民に対し、正しい情報を理解できる言葉で語り、また論理的思考に基づく判断を可能とする。

○ 津波などによる放射性元素以外の汚染物質の海洋流出、および生態系の撹乱と回復について、モニタリングを行う体制を整え、実態の把握と影響の推定を行う。

<具体活動>
○ 観測体制
JAMSTECと大学による研究船を利用した観測と、水産庁、気象庁、海上保安庁などの現業観測を組み合わせて、最適な観測を行う。JAMSTECによる航海研究観測に収集、分析、解析の公募を入れる。大学中心の観測は、参画メンバーが合意の上、既存計画の一部を変更してシップタイムを確保し、観測航海を実施する。コミュニティとしての計画を立てるとともに、観測計画を調整する組織を立ち上げ、広く周知する。各大学の練習船等も利用して、観測体制を充実するように提言する。また、収集した海洋試料について、放射能測定を速やかに行うため測定グループとの連携を確保する。

○ モデリング
沿岸域(10〜30km幅)モデルと中規模渦解像できる近海域モデルをネスティングし、放射性元素放出源の情報をインプットする。データ同化を用いて海洋観測データと放出源に整合する場を構築する。モデリング研究に関する連絡会を継続的に開く。

○ 他分野との連携
原子力工学専門家と協力し、可能性の高いシナリオ、最悪シナリオなど想定し、放出量の時系列を得るとともに、大気・陸水学専門家と協力し放射性元素の海洋流入を推定することによって、海洋環境への影響を把握し、予測精度を高める。

○ プロジェクト立案
大災害に伴う研究プロジェクトの立案に協力するとともに、これからの計画立案やプロジェクト申請の機会には敏速に対応できるよう、情報収集と海洋科学専門家のネットワーク活性化に努める。

○ 情報提供・開示
新たな情報を提供・開示することに加え、既存の情報も整理、評価し開示する。リスク・アセスメントに必要な情報には確度を付けて開示する。開示する情報を相互検証し、広くアクセスできるシステムを用いて、多くの人々が理解できる論理的な解説を付け、またわかりやすい可視化に心がけて公表す
る。市民に対するQ&Aや、他の有益な情報源へのリンクなど、海洋学会と市民の交流を活性化する。有用な場合は英語による情報発信を行う。研究の進行を報告し、得られた知見を広く開示するため、シンポジウムやワークショップを滞りなく開催する。
<以上>