気候変化に対する緩和策・適応策の策定が喫緊の課題とされており、海洋においても環境変化の実態を知ることの重要性が高まっている。全球規模での環境変化を監視するためには、適切な計測・分析標準のもとに、トレーサビリティや比較可能性 (comparability) が確保され、かつ、その不確かさ (uncertainty) が明確にされているデータの公開が不可欠となることは言うまでもない。

 近年では、各国の連携協力のもと、WOCE測線の再観測によって海洋内部の変動に関する知見が蓄積され、気候変化に関する国際パネルの第5次評価報告書にその成果が引用されている。また、気候変動研究に用いる全ての測定値を完全にSIトレーサブルにするための対策が講じられるよう、国際度量衡会議から関係機関への勧告がなされている。さらに、栄養塩標準物質も普及しはじめている。このように、データの比較可能性やそれが鍵となる研究、標準物質に係る研究開発が進展している。

 一方、観測や分析に用いられるガイドラインは、これらの進展を反映しているとは言い難い。我が国においては、気象庁が1999年に発行した「海洋観測指針」が比較的広く活用されていたが、その記述は必ずしも最新のものとは言えず、かつ、現在は入手困難である。2010年には、WOCEマニュアルを改訂する形で、GO-SHIP海洋観測マニュアル (IOCCP Report No.14, 2010) が発行されたが、これは外洋におけるRepeat Hydrography用のもので、幅広いユーザーを想定したものではない。また、他にも種々のマニュアルやガイドラインが存在するが、あるものは日本語のみ、またあるものは英語のみ、といった状況であり、さらに、最新の内容とそうでないものが混在している。

 この現状を踏まえ、日本海洋学会は、海洋観測ガイドライン編集委員会を発足させ、
既存のガイドライン類を精査・整理し、必要な更新と不足を補って統合し、最新の海洋観測法や分析法を記載した「海洋観測ガイドライン」を発行し、日本海洋学会のWebページにおいて広く公開することとした。

本ガイドラインは逐次更新することで、常に最新のものが利用できるようにすることを意図している。本ガイドラインが多くの観測者に用いられ、海洋学の進展に役立つことを期待している。

海洋観測ガイドライン編集委員会
委員長 河野 健