山形俊男会員が2005年4月29日春の褒章発令において、学術、芸術上の発明、改良、創作に関し事績の著しい方を対象とする紫綬褒章を受章した。

 山形会員は永年にわたって、地球流体力学および気候力学の研究と教育に打ちこみ、大気と海洋に生起する諸現象や大気海洋間の相互作用に伴う気候変動の発生、および、その維持機構の解明に顕著な貢献をしてきたが、今回の受章はこれら一連の卓抜した業績に対して授与されたものである。

 山形会員の研究業績は多岐にわたるが、その1つである1970年代に行った海洋と大気の非線形波動に関する一連の研究は、その後「中間地衡流力学」として多くの地球流体力学的研究の基礎を確立した。また、1980年代前半に同会員が行った熱帯域の大気海洋結合擾乱に関する理論的および数値的研究は、東進しながら発達する大気海洋結合擾乱の存在を初めて示し、エルニーニョ研究の発展に重要な貢献をした。さらに、簡略化された大気海洋結合モデルや海洋大循環モデルによる数値的研究を通じて、TOGA(熱帯海洋全球大気研究計画)の成功に繋がる多大な貢献をした。

 1990年代以降は、数十年規模の気候変動の重要性を提唱するとともに、アジア・モンスーンの影響を強く受ける地域での大気海洋相互作用に関する研究を推進した。これらの研究は、「インド洋ダイポール現象」と呼ばれるインド洋海域での大気海洋結合現象の発見へと大きく発展し、熱帯域における大気海洋相互作用の研究が新たな段階へと突入するきっかけともなった。これ以外にも、沿岸ケルビン波による非線形適応現象に関する研究は、「急潮」現象の理論的基礎となった他、黒潮流量の季節変動における、大陸棚斜面と傾圧流との相互作用、いわゆるJEBAR効果(Joint Effect of Baroclinicity and bottom Relief)の重要性を指摘し、西岸境界流の変動の理解を一層深めた。こうした山形会員の優れた研究業績に対しては、既に、日本海洋学会賞や日本気象学会賞、米国気象学会スヴェルドラップ金賞(Sverdrup Gold Medal)等が授与されているとともに、米国気象学会のフェローの称号も授与されている。

 一方、山形会員は、日本海洋学会、日本気象学会および政府関連の各種委員を務めると同時に、ユネスコの政府間海洋学委員会(IOC)や世界気候研究計画(WCRP)の国際委員を歴任し、国際的な学術誌の編集委員や副編集長としても活躍している。さらに、旧科学技術庁の航空・電子等技術審議会地球科学技術部会メンバーとして、地球フロンティア研究システムや地球シミュレータ等の大型プロジェクトの推進にも多大な貢献をしてきた。今回の受章理由には、山形会員の傑出した研究業績に加えて、これら海洋学全般の発展のために果たした多大な功績も考慮されている。

(東京大学大学院理学系研究科 升本順夫・日比谷紀之・中村尚)