計画

Model Inter-comparisonを企画する<23年6月> (ここをクリックしてください。Wordファイル)

シミュレーション結果の解説を提供する<23年7月> (ここをクリックして下さい。Wordファイル)

モデル間の相互比較:放出から2ヶ月程度<24年4月> (ここをクリックして下さい)

メンバー

池田元美、升本順夫、宮澤泰正、河宮未知生、羽角博康、田中潔、北出裕二郎、磯辺篤彦、三寺史夫、早稲田卓爾、津旨大輔、木田新一郎、石川洋一、小林卓也、崔栄珍、内山雄介

現行モデルとその改良について(23年5月)

(1)現行シミュレーション

従来のモデルには2つの系列がある。ひとつは、沿岸付近の高解像度モデルによって、温排水のアセスメントを行うもの、もうひとつは、黒潮・親潮混合域の中規模現象を扱うものである。

(1-1)沿岸付近の高解像度モデル

いくつかのモデルが開発されており、ROMS(Regional Ocean Modeling System)、FVCOM(有限体積モデルを用いている)などの例がある。一例を示すと、モデル領域は海岸から約100kmの幅と、海岸に沿って約300kmの長さを持つ。水平解像度は1km×1km程度、鉛直には200m程度の海洋上層に20層を持つ。この上層より下には静止海水を仮定し、水深が上層より浅い海底地形のある部分では、地形に準拠したシグマ座標で表す。外洋の境界条件は月平均気候値の海面高度と密度分布を与える。このモデルを再解析気象データから求めた風応力によって駆動する。再解析気象データの代わりに、気象庁の全球モデルGSMを境界条件とした領域気象モデル(NuWFAS)から求めた風応力を用いることも試している。潮汐流は弱いものの、モデルに取り込んでいる。

放射性物質は原発から放出する量を決め、その移流と拡散をモデルで計算する。放射性物質は沈降しないものとしても、海水中の濃度については充分な精度を持つ。また大気を経由する降下を加えることも可能である。

沿岸近くの放射性物質濃度の相対的変動は、観測値と整合しており、モデルが適切であることを示している。海洋モデルを駆動する気象再解析データは、解像度の高いものがより妥当な海洋循環を作る。しかし沖に向かう量は実際より少ないと思われる。その理由は、黒潮・親潮混合域に取り込まれる流動場を表現できていないことであろう。

Fig1_model
図1 ROMSを用いた結果のセシウム137の分布、点は観測点を示す(東京電力公表データ)

(1-2)黒潮・親潮混合域の中規模渦解像モデル

中規模現象を含む海洋循環場のシミュレーションは、放射性物質の移動・拡散を含まないモデルとして進められてきた。JCOPEはその一例であり、多くのモデルに共通している概要は次のとおりである。モデル領域は日本東海岸から日付変更線あたりまでの黒潮・親潮混合域とし、解像度は3km×3km程度までの高解像度も可能である。海面高度計および水温のデータを用いて現実の循環場を再現することを目的にしている。

これに福島沖で4月上旬に粒子を入れて、時間変化していく海洋循環場を予測した結果を示す。粒子追跡による放射性物質の分布には、3週間で300km以上東に移動している部分もある。このモデルでは沿岸近傍の循環を再現することが難しく、今後の課題として残っている。

Fig2_model
図2 JCOPE2のシミュレーション結果(5月1日)色は濃度を示す(文科省公表データ)

(2)モデルに取り込むべき要素、検討すべき課題

(2-1)シミュレーション

沿岸域(10~30km幅)の風成循環と河川水などによる密度流を正確に再現し、また海底地形の効果、および現場の速度・密度構造によって決められる鉛直混合を含むことが必須である。このモデルと中規模渦解像のできる近海域モデルをネスティングし、放射性元素放出源の情報を導入する。

データ同化の手法を用いて、海洋物理観測データに整合する海域結合モデルのシミュレーション結果を求める。放射性元素については、観測データと比較してモデル内の分布を修正することも考慮し、その水平フラックスをモデルから求める。さらに放出源の情報と比較して、放出源とモデルの双方を検討する。

いくつかの沿岸域のモデルを検証し、不確かさを特定するため、モデル相互比較(Model Inter-comparison)を行う。沖側のモデルはJCOPEとし、双方をネスティングで結合する。駆動力、解像度、力学過程などを共通にすることを含め、コーディネーションが重要である。

(2-2)理論研究とプロセスモデル

砕波帯に伴う沿岸流と離岸流が放射性元素移動に及ぼす効果を、理論的推定やプロセスモデルを用いて見積もる。

放射性元素のふるまいについては、大型生物や海底堆積物に永く存在する可能性のあるセシウム137を中心に、植物プランクトンへの付着、食物連鎖による濃縮、堆積物への吸着を見積もる。海洋循環場にも注意し、表層から浅い海底へのEkman流、鉛直対流などに伴う堆積物吸着も推算する。

河川と土壌を通じた放射性元素の海洋流入を考慮し、その重要性を見積もる。